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ヘボン館

  • 執筆者の写真: 小林真生
    小林真生
  • 4 日前
  • 読了時間: 3分

明治学院大学白金キャンパスの戯画。



 何か名称があるんだろう、目に無数の突起を引掛けてくるような粗目の表面をした、クリーム色の壁が廊下を暗がりに化かしている。暗い廊下は半円形を描いていて、中間点に人間大の穴のようなものがある。白地に黒で「ヘボン館5F」、というのがくっついている扉であるが、ほとんど意味を催す前に意識は壁のかちこちに逃げていく。そして用がなければ、光らない消火栓のようなものである。ただし大きい。


 この扉にかちこちより無機質な感がある。なにせ重い。いかめしくないがやかましい音がよく響く。扉は大概ちょっとだけ外に開いている。もっと開けるには、手でノブを押すより体重を扉の面に働きかけなければならない。横タックルの姿勢をとると楽である。私は上腕で押し開いている。タックルに負けた扉は閉まる際に大きな音を出す。配慮すべきなのかもしれないが、私は仕方ないことにしている。


 本館5階とヘボン館5階はこの連絡口でつながっている。


 学内の建物の中で本館だけ地上階がずれている。ヘボン館の大学院施設出入口は1階にあるが、ちょうど目の前に本館2階につながる扉があって、本館内の図書館には段差なく直進できる。しかし例によって扉は重くてやかましいのには、甘んじなければならない。大学院出入口も同様で、不注意で静を爆散させてしまう。


 1階の出入口が本館と一致していないのに、5階で数字を並べなければならない。本館の1階と2階は天井が高い。大教室がある。ヘボン館1階には教員憩いの場がある。小さなピロティーがある。しかし天井は矢鱈高い。ヘボン館の2階から4階には重い義務がのしかかることになる。本館の1階分を追い上げなければならないのである。私があまり天井に関する違いを感じなかったのは、錯覚であろうか。いずれにせよ建物は努力しているのである。


 ちなみに本館1階は国道に面していて、ヘボン館地下1階との連絡口まである横着ぶりである。こんなにけしからんから1階になる。本館には地下2階まである。


 ヘボン館の勇気を振り絞った階の段々に大学院の生活がある。大学院生も圧力に窮するような輩であってはならない。


 突然として本館にソファーが出現した。今年の春のことで、もう至る所にある。至る所で学生の寝入っている光景は、白金台随一の呑気として八芳園に誇る代物である。諸君授業中はさぞ冴えていることだろう。学部生には多大なる期待を寄せている。図書館でもぐうすぴ聞くこと甚だしいから、やはり期待は高まる。


 牧歌の響は例の扉によってヘボン館の大学院生を締め出している。しかし私はヘボン館で眠くなる。天邪鬼を自任し、扉の前に甘えなければならない。館に入ってしまえば残りの扉は軽い。その分だけゼミ室の部屋番号はすぐ忘れる。いちいち確認してから入室する生活を、毎学期末まで営んでいる。研究室の暗証番号は忘れた。


 ゼミ教室の長机と椅子は、牧歌的ソファーにあわせて一新された。今年の春のことで、うちの学校の有り余る財力に驚嘆させられる。入学を迷う高校生諸君においては、この件だけでうちを推す理由になる。良い場所である。ちなみに従来ある方の椅子には、背もたれに体重を加えるとちょっとだけ傾いてくれる仕掛けがある。天邪鬼じゃなけりゃ気付かないだろうから、ここで秘密の告白とする。


 毎教室にビデオ機材を備え付けている親切も、富の象徴である。機材から2本の HDMI を生やしている親切も、ここに加わってくる。そのうち1本がテレビと通じているので、私達は千里の眼で見極める。ホワイトボードのペンも豊富な数を毎教室に揃えてある。出るものから出ないものまで色々である。


以上

 
 

​小林真生は音楽をする人

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